わらべうた程度の重さで口をついて

エッセイと、時々質量140字の文章。

予防接種と私の進化

心療内科でインフルエンザの予防接種を受けてきた。
なんだろう、この一文だけで仄かに香る、牛丼屋で食べるカレーみたいなそれは。
新聞を見てもテレビを見ても、コロナコロナなご時世だ、一般の内科にホイホイと足を運ぶのも、何だか考えてしまうのだ。
そんな時、通っている心療内科でインフルエンザの予防接種、出来ますよという有難い話を聞いたので、これはお願いしてしまおうと。

事前に記入する、書類項目の『ひきつけを起こしたことがあるか?それはいつ頃?』という欄で、1歳の赤ん坊の頃のことも含まれるだろうかという攻防戦を頭の中で繰り広げたり、そこに看護師さんの、含まなくてOK!の一声で平和が訪れたりした後、いよいよ私の体にはワクチンがぶち込まれることに。
女性看護師さんが「痛くないおまじないしようか?」と、問う。
おまじないと言うので、私はてっきり、幼子にする
『痛いの痛いの飛んで行けー』
的なものだと思っていた。
だが、実際には針を打つ場所に、直前まで骨が軋むくらいの痛みを与えておくというものだった。
綺麗さっぱり、飛んでいく痛みなど無かったのだ。
これが大人になるということだろうか。

短めの針がちうっと腕の中に入る。
ここまでは痛みはほぼゼロで、本番はここから、薬を体内に押し込まれる時だ。
箇所が違うが、小顔マッサージで頬骨を力いっぱい指先で押さえる時の痛みに似ていた。

そんなこんなで予防接種は無事に終わった。
家で母親に報告すれば、真っ先に聞かれたのは
「暴れなかった?」
「噛みついたり、引っ掻いたりしなかった?」

という質問である。
そんな悪いことしないやいと笑えば、否、前科があるから…と母は遠い目をする。
幼少期、注射も病院も大嫌いで、抑えつけるお医者さんや看護師さんに噛みついたり、爪を立てて引っ掻いたりと、本気の威嚇をしていたそうだ。
動物の生き残る本能を感じると言われていたと。
声一つ上げずに、注射されてきた私。
これが大人になるということだ。
否、私の場合、動物から人間になるということか?